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ep.03 花と別れとシダレザクラ 04 (下書き)
JUGEMテーマ:自作小説

 04. 花と別れとシダレザクラ


 鉢植えの下から現れたされこうべが虚ろな眼窩をこちらに向けている。
 柚紀は動転のあまり後ずさって、何もできずその頭蓋骨と睨みあっていた。
 なぜそこにそんなものが埋められていたか皆目見当もつかない上に、気味が悪い事この上ない。本物だとすれば悪意を感じる。
 鉢を割る直前の自分の行動をリセットして、何もかも見なかったこと、無かったことにしたい。
 そう願ってみたところでこれは現実であるらしく、割れた鉢植えから見上げてくる頭蓋骨は消えはしないのだ。

 「おい、荷台から花を降ろし終わったぞ。何やってるんだ?」

 後ろから声が掛かって、柚紀は釘づけになっていた視線を何とか動かして、振り返った。怪訝な顔をした對駆に「あれ」と震える声で告げる。
 疑問符を浮かべた對駆は柚紀を通り越して割れた鉢が散乱する地面を見て、真剣な顔になった。

 「・・・悪趣味だな。」

 一言だけそう呟くと、「ちょっと待ってろ」と言い置いて引き返す。残された柚紀は割れた鉢のほうを見ないようにして扉の影に寄りかかった。
 ほどなくして對駆が檸威を伴って戻ってきた。父親としても店主としても普段頼りない檸威だが、割れた鉢植えの中から現れた頭蓋骨と思しき物体を見ても騒がず、久しぶりに責任者としての顔つきを見せた。

 「柚紀君、細川さんに連絡を取って、細川さん経由で警察に来てもらって。
  僕がここにいるから、對駆君店のほうを頼んだよ。」

 てきぱきと指示を出し、動揺している柚紀を現場から遠ざける。
 柚紀としても気分を落ちつけたかったので素直に指示に従い、家に戻ると電話を掛けた。
 細川というのは杏の姓で、檸威が「細川さん」と呼ぶときは大体、杏の父親の方を指している。神宮寺で敷地内に墓地もある杏の家の父親なので、何かしら警察との繋がりを持っているらしい。電話を掛けると運よく在宅していた杏の父親と電話で話すことができた。杏の父親は突然で突拍子もない此方の話を疑うこともなく、横やりを入れることも無かった。
 簡単に段取りを打ち合わせると電話を切り、柚紀は店に出て店内の奥に置いた椅子にへたりこむ。
 幸いなことに店内に客の姿はなく、いつもからかってくる對駆は何も言わない。
 しばらく椅子の背で項垂れていた柚紀だが、沈黙に耐えきれなくなって、相方に話しかけた。

 「・・・なあ」
 「なんだ?」
 「あの、鉢植えを置いて行った客、知ってたと思うか」

 目的語のない問だったが、相方には正しく伝わっている自信があった。
 少し頭を上げて番台を見ると、番台下の小さな椅子に踏ん反り返って腕組みをしている相方は少し考え込んでいるようだった。ややあって此方と目線を合わせてくる。

 「いや、知らなかっただろうな」
 「俺もそう思う。虫がどうこう言ってただけだし。」
 「だが良くないものだとは感じていたみたいだな、ここへ持ってくるくらいだ。」

 その言葉に柚紀は思い出した。
 そもそも問題の鉢植えを受け取ってしまったのは、コイツではないか。
 受け取るまいと必死だったのに、あっさり肉につられてほいほい受け取ってしまったのだ。

 「そうだよ、お前が受け取らなきゃ、こんな目に合わなかったんだ!」
 「は?逆恨みか?あの唐揚げは中々うまかったぞ。」
 「俺は食べてないし!」
 「悪かったな。次からはちゃんとお前の分も取っておいてやるよ。」

 慈愛の色を浮かべて言う對駆だが、そもそも論点が食い違っている。
 反省の色もない相方に柚紀は徒労を憶えた。



 暫くそうして男二人ぼうっと店番をしていたところ、店の裏手のほうに車が止まった音と複数の人の声が聞こえてきた。
 ああ警察がきたのかなと柚紀が考えていると、どかどか足音が聞こえてきて、店と自宅を繋ぐ裏の戸がバンと開いた。お客様がいなくてよかった。目立たぬように衝立やら番台でそれとなく隠している戸を思い切り目立つように引き開いたのは、柚紀の幼馴染だった。

 「柚紀!!」

 おまけに大声で叫んでくれる。
 辟易しながら振り返る。横目でちらりと確認すると居候狼はそっぽを向いて席を立つところだった。こいつは口うるさい女性が苦手らしい。
 幼馴染の杏はこちらの反応は一顧だにせず、ずかずか店に入ってきた。

 「ちょっと、この店で人死にがあったなんて本当!?」
 「縁起が悪いことをいうな、誰も死んでないって」
 「え?お父さんがお経あげにいくっていうから来たんだけど。
  あの目つき悪いバイトがついに事件を起こしたんだとばっかり!」
 「だから誰も死んでないって」

 遠くの方で「勝手に俺を殺人犯にするな。そもそも人肉は旨くない。」というささやかな抗議が聞こえたが、遠くなので誰も相手にしなかった。
 入ってきた杏は勝手知ったるとばかりにディスプレイ用の椅子から主役の花鉢を引き摺り下ろしてどっかり座る。向き合って柚紀は嘆息した。

 「うちで預かった荷物に、なんでか人骨が入ってたんだよ」
 「ひと昔前の何とか殺人事件みたいね。他にも見つかったりして。」
 「やめてくれ、あんなもんもう見たくない。」

 心底嫌そうに言うと、杏はこちらが参っていることに気付いたのか、少しからかう様子を潜めた。

 「そんなに酷かったの?」
 「いや、別に。でもあんなとこからあんなもん出てくるなんて普通思わないだろ。」
 「どっから出てきたの?」

 問われて柚紀はどう答えるか迷った。説明するのは簡単だが、状況が特殊なだけに杏を事件に巻き込むかもしれない。それに仮にも女性の杏を怖がらせるような話をしたくない。杏は大丈夫だと言うかもしれないが、柚紀の理性と良心が駄目だと言うのだ。

 「ん〜。警察に黙ってろって言われるかもしれないから俺の口からはちょっと」

 などと誤魔化すと杏はぶーと口を尖らせた。「ちょっとくらいいいじゃない柚紀の馬鹿」などと一頻り文句を言って最後に「いいもん、いっちゃんに聞くし」で終わった。警察に知己がいるらしい自分の彼氏を問い詰めるつもりなのだろう。後で責められる一郎を思って、柚紀は心の中で合掌した。ごめん一郎、骨は拾ってやるから。いや、もう骨は見たくないんだった。

 「それにしても荷物がどこから来たのか気になるんだよなぁ。
  お客様から預かったんだけど、あのおばちゃん達は何も知らなそうだったし。」
 「ダメだよ、柚紀。」

 話の向き先を変えようとして、しかし自分が今気になっていることが頭から離れず、結局先ほどの事件のことを口にした柚紀に、杏は先ほどと違う真剣な面持ちで駄目だしをした。

 「あんたこんなことに関わっている暇あるの?ただでさえ単位ヤバイんでしょ。」
 「けど」
 「そろそろどうするか決めないと本気で駄目だよ。
  この店継いで花屋やってりゃいいならこのままでもいいけどさ。
  就職するなら単位は落とせないし、院に進学するならもっと勉強するべきよ?」
 「そりゃ分かってるけどさぁ」
 「分かってない!!」

 いきなり激昂して番台を叩く杏に柚紀は思わず姿勢を正した。

 「いっつもそうやってヘラヘラして、周りに流されてばっかり!
  あんたも結局親子なのよ、あのおじさんに似てる。
  優しいのはいいけど、決められないし何もできない。そんなんじゃいつまで経っても・・」
 「杏」

 柚紀が出した低い声に、杏ははっとして途中で言葉を止めた。言い過ぎたと気付いたようだ。
 一方の柚紀は苦い気持ちを噛み締めていた。
 父親と比較されて、つい気が立ってしまった。炊事洗濯も店の仕事も不器用な父親に育てられた柚紀は、自分は出来ない父親と違って何でも出来る用になろうと必死だった。ヘラヘラとして、時にふらっと気ままに旅行に出てしまう父親を羨ましく思い、裏腹に軽蔑し、どうしようもないと家族だからと許容してきた。そんな複雑な思いの隙を杏は見事に突いたのだ。

 「とにかく、単位もほどほどに取るようにしたほうがいいから。
  事件は警察に任せておいたら。」
 「ああ。」

 消沈した柚紀の様子に、言い過ぎたとは思いつつも言った言葉は取り戻せない。杏は言うだけ言うと席を立った。
 彼女が戸の奥に消えると途端に店が静かになった。
 癒し系のBGMが流れる店内に、ただ柚紀の溜息だけが響く。
 と、そこに店の外で花を整理していたらしい對駆が入ってきた。

 「あの女は出て行ったのか?」
 「うん。」

 よほど彼女と同じ空間に居たくなかったらしい。返事を聞いた對駆はさっさと店内に戻ってくると、杏の座っていた席の上に、降ろされていた花鉢を置き直した。
 そして自分は別の簡易椅子を棚から出して、杏が入ってくる前と同じに踏ん反りかえる。
 その様子に柚紀は少し苦笑した。

 「どうした?」
 
 ちらとこちらの顔を見た對駆は眉を顰めた。
 どうした、と聞かれて、何か顔についているかなと考えていた柚紀は続いた言葉に吃驚した。

 「浮かない顔をしているが、あの女になにか言われたのか?」
 「・・・お前に気遣いできる能力があったなんて・・・。」
 「喧嘩を売ってるのか?」

 口を開けば好物の肉のことか、食べ物の文句のことか、嫌がらせのような言葉しか言わないイメージだったのだ。だが思い出してみればこの居候は情を知らない訳では無かった。意外に気遣いができても、常に剣呑な雰囲気でそうと見えないだけで。

 「さっき杏に親父に似てるって言われてさ〜。
  そんなに似てるかな?」

 冗談交じりにそう聞いてみると、對駆は何の気負いもなく「そんなことか」と言った。

 「親子なのだから似ていない訳がないだろう。」
 「・・・・・だよな〜。」

 何を期待していたんだろう。
 特に何の含みもなく言い返されて、柚紀は秘かにがっかりした。おそらく似ていないと言われても嬉しくなかっただろうけれど、似ていると言われると今は少し気に障る。

 「俺、変わったほうがいいのかな〜」

 例えば一郎のように勉強ができて仕事もできる見るからに選ばれた人種、あるいは尊敬する大学の教授のような社会的に意義のある職種、あるいはそれらを目指す多くの学生と同じように、必死に就職活動をしたり勉強してみたりすれば、何かが変わるのだろうか。
 花屋を継がなかったら親父は気に病むだろうか。いや、ちょっと笑って「柚紀君のしたいことをしたらいいよ」と言うと思う。いつも通りヘラヘラと笑いながら、少し寂しそうに。
 あれこれ想像をしていると、隣で對駆がぼそりと呟くのが聞こえた。

 「・・・俺は変わらなくて良いと思うがな。」

 聞き間違いかと目をぱちくりしていると、カランと来客の音がしたので即座に接客モードに切り換える。それきり接客に集中していたので、この話題は何と無く流れてしまった。結構大事なことを聞いた気がするのだが、もう一度聞けることでもなくて。
 この言葉を思い出すのはずっと後のことだった。





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 ※上記は下書きの一部です。きちんと推敲したものは後程サイトに掲載します。
  本公開した物語はブログから順次降ろしています。
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